| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-PC-209 (Poster presentation)
大気窒素沈着量の増加は森林生態系に様々な影響を与えるが,特に単木レベルの蒸散の応答に関する報告は少ない。そこで本研究では窒素負荷増加に対するミズナラ蒸散の短期的応答を樹液流計測によって明らかにすることを目的とした。またグラニエ法による樹液流計測を環孔材へ適用する際のセンサー感度の低下を軽減するため,短いセンサーの使用と染色実験による辺材における樹液流存在部位の特定も行った。九州大学北海道演習林の27年生ミズナラ林分に10 m × 16 mの窒素施肥区と対照区をそれぞれ1つずつ設置した。各プロットの樹冠占有木16本ずつに対し,7月上旬から10月上旬にかけてグラニエ法を用いて樹液流計測を連続的に行った。2019年8 月6日,施肥区に50 kg N/ha・yrの硝安を散布した。同期間に土壌水分計測と気象観測(観測項目:気温,湿度,日射量,有効光合成放射量)も行い,施肥前後1回ずつ樹冠葉を採取し葉内窒素濃度を計測した。染色実験では,対象木すべてにおいて樹皮側2~3年分の年輪が染色され,この範囲の道管のみにおいて水分通導機能が担われていることが示唆された。これはセンサー幅と一致しており,感度よく樹液流計測が行えたことが示された。日別平均樹液流速のプロット平均値を施肥前1か月,施肥後1か月,施肥後2か月の期間において比較したところ各期間とも違いは見られなかった(P >0.05)。よって窒素負荷増加に対するミズナラ蒸散の短期的応答は無視できるほど小さいことが示唆された。この原因の一つとして,葉内窒素濃度が施肥前後で変化しなかったことが考えられた。施肥前の葉内窒素濃度は施肥区2.25 %,対象区2.17 %(P > 0.05),施肥後は施肥区2.12 %,対象区2.20 %(P > 0.05)であった。ミズナラは一斉展葉を行う樹種であり(岡野,中井,1992)展葉完了後は葉内窒素濃度の増加が停止する(Hikosaka et al , 2007)という性質をもつことから,本研究では施肥が葉内窒素濃度を増加させなかったと考えられた。