| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-PC-210 (Poster presentation)
かつての里山では自然資源の利用によって異景観の間の物質移動が生じていた。特に牛は各景観の窒素を堆肥にすることで窒素を変換する役割を持っていたが、飼養目的の変化によって現在は役割が喪失している。本研究では物質循環経路の現代的な再現として牛糞堆肥を用いた粗飼料稲栽培を行う農畜複合農法を実験的に行い、窒素フローを定量化した。これをもとに農法の窒素収支を評価し、低投入・低排出を実現する条件を提案した。
調査は新潟県佐渡市の畜産農家と休耕田で行った。肥育・堆肥生産・水稲栽培の3つの過程からなる農法について、濃厚飼料・敷料用籾殻・大気沈着・水口からの流入を農法へのインプット、肉牛の出荷・水尻からの流出をアウトプット、牛糞・使用済みの籾殻・堆肥・稲粗飼料を内部循環として窒素負荷量のパラメーターを収集した。また、インプットとアウトプットが等しくなるという仮定の下に残差から各過程での流出を算出した。
肥育牛1頭あたりの窒素負荷量で見た場合、調査対象農家の条件では年間に生産される堆肥を全量用いることで年間の粗飼料消費量以上の稲が収穫できると算出された。しかしこの条件では、肥育過程へのインプットである稲粗飼料・濃厚飼料・籾殻の総和に対して自給可能な資材である稲粗飼料の窒素負荷量は1.79%であり、外部投入への依存が大きいことが明らかとなった。また、牛糞堆肥の窒素負荷量は堆肥生産過程へのインプットである牛糞と籾殻の17%でしかなく、製造過程で大量の窒素が系外流出していることが明らかとなった。そこで低投入・低排出にする条件として堆肥原料中の窒素回収量を増やす設備を導入して堆肥生産量を増やし、それによって収量の増えた粗飼料稲を余さず消費できる粗飼料給与率の高い繁殖経営を行うことを仮定した。その場合、牛生産へのインプットの総和に対する稲粗飼料の窒素負荷量の割合は15.4%まで上昇する可能性が推測された。