| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-PC-214  (Poster presentation)

ベトナム中部高地の森林生態系における生物学的過程への窒素・リン制限—土壌学の観点 【B】
Phosphorus and nitrogen limitation of biological processes in forest ecosystems of the Central Highlands in Vietnam—a soil science perspective 【B】

*Chihiro OKADA(Kyoto University), Shinichi WATANABE(Kyoto University), Lam Ho NGUYEN(Hue University), Tetsuhiro WATANABE(Kyoto University), Shinya FUNAKAWA(Kyoto University)

 陸域生態系においては、主に窒素(N)とリン(P)によって 純一次生産などの生物学的プロセスが制限されている。制限の評価には、葉のN:P比がよく用いられており、16以上でP制限、14以下でN制限を示すとされている。しかし熱帯林は生物多様性が高く、種によってN:P比の変動が大きいため評価が難しい。したがって、生態系の養分制限のより深い理解のために、包括的なアプローチが求められている。
 土壌微生物は、有機物分解や鉱物風化を通して植物が利用可能な養分の供給を制御している。特にPについては、熱帯の強風化土壌において全量が少なく、また植物が利用不可能な形態が多いため、その可給性が微生物に大きく左右される。そこで本研究では葉のN:P比に加え、基質添加に対する微生物応答から、森林生態系におけるN・P制限を調べることを目的とした。
 ベトナムの中部高原の2種類の土壌(アルティソル、オキシソル)において、それぞれ天然林と窒素固定能力がありPの利用効率が高いアカシア林で調査を行った。 微生物の基質添加に対する反応は、土壌へのグルコース・N・P添加に対する微生物の増殖を分析する方法を用いて調べた。
 植物については、種に関わらず採取したすべての生葉のN:P比は16を超えており、P制限を示した。微生物については、両土壌のアカシア林で低い有機物投入量 と対応したN制限が見られた。アルティソルの天然林では、低い有効態Pと対応したP制限であったが、オキシソルの天然林では、低い有効態Pにも関わらず制限が見られなかった。これはオキシソルでより全Pが多く、微生物が有効態P以外の土壌に吸着されたPを利用しているためと考えられた。以上より、葉のN:P比と微生物の基質添加に対する反応が異なる制限を示したことから、熱帯森林生態系のN・P制限の解明には、生物プロセスを考え複数のアプローチを用いて調査するべきと考えられた。


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