| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-PC-215 (Poster presentation)
生立木腐朽は、生立木の木部が腐朽菌による分解を受ける現象である。世界中で林業被害を引き起こす一方で、特異的環境を提供し生物多様性の維持にも寄与している。また、罹病木は健全時と比較して炭素蓄積量が減少するが、従来の森林の炭素蓄積量の推定方法では考慮されていないため、生立木腐朽の発生状況によっては炭素蓄積量を過大評価していた可能性がある。しかし、天然林での生立木腐朽の発生状況に関する研究は世界的にも数例しかない。その理由の一つは、腐朽部の材積を簡便に推定できる非破壊的手法が存在しないことである。そこで本研究では、貫入抵抗法による腐朽材積の推定方法を開発し、それを用いて日本各地の冷温帯天然林における生立木腐朽の発生状況と炭素蓄積への影響を調べた。
罹病木を玉切りして腐朽材積を算出し、それを貫入抵抗法により推定した胸高の腐朽面積から推定する計算式を作成した。同時に腐朽部および健全部の炭素密度を測定した。次に、京都大学芦生研究林(京都府)、鷹ノ巣山(広島県)、新潟大学佐渡演習林(新潟県)の冷温帯天然林に計6プロットを設置し、貫入抵抗法による腐朽調査を行って罹病率を調べた。作成した計算式によって腐朽材積を推定し、腐朽部の炭素密度を用いて生立木腐朽による幹部炭素蓄積の減少量を算出した。
胸高の腐朽面積を用いて、高い精度で腐朽材積を推定できた(R2=0.81)。腐朽調査の結果、罹病率は8.4%~42.5%であり、積雪やクマハギの有無に関わらず罹病していたことから、生立木腐朽は冷温帯で広く発生している可能性が示唆された。生立木腐朽を考慮した場合の幹部炭素蓄積量は、考慮しない場合と比較して0.3~3.9%少なく、従来の推定方法では森林の炭素蓄積量を最大4%程度過大評価していた可能性が示唆された。生立木腐朽は天然林の動態や炭素蓄積量の推定に無視できない影響を及ぼしており、その発生状況を正確に把握することが重要である。