| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-PC-217 (Poster presentation)
森林生態系の炭素収支を表す生態系純生産量(NEP)は気候帯や優占種、林齢によって異なるとされる。しかし優占種の違いが純一次生産量(NPP)と従属栄養生物呼吸量(HR)に及ぼす影響を同一地域、同一林齢において、長期間にわたって着目した研究は極めて少ない。本研究ではNEPの経年変動の要因を解明するために、異なる3林分のNPPとHRを7年間にわたって測定した。
本研究は冷温帯の近接したコナラ(落葉広葉樹)、カラマツ(落葉針葉樹)、アカマツ(常緑針葉樹)がそれぞれ優占する50年生の3林分で行った。2012年から2018年までバイオメトリック法を用いてNPP(=枯死・脱落量(LF)+樹木成長量(ΔB))とHRを測定し、NEPを算出し経年変動の比較を行った。
LFの変動の幅はどの林分でも小さく、アカマツ林では2013年と2017年に増加した。これは大型台風によって若い葉と枝が脱落したことが考えられ、台風がLFへ与える影響の強さは優占種によって異なることが示唆された。ΔBはコナラ林では年間日照時間、カラマツ林とアカマツ林では春季の高温により変動する可能性が示された。NPPはΔBと同様の変動を示し、ΔBがNPPに占める割合も高いことから、ΔBがNPPの変動を決めていることが考えられる。一方で、年間平均地温がほとんど変動しなかったため、HRはどの林分でも変動の幅が小さかった。以上よりNEPの変動は主にNPP、そしてその主要因であるΔBの変動が影響していることが明らかになった。また7年間の平均値を林分間で比較するとNPPとHRの値は優占種によって異なり、NEP (tC ha-1 yr-1)はコナラ林で2.0±0.5、カラマツ林で2.8±0.4、アカマツ林で4.0±0.4となった。気候帯や林齢によるNEPの違いと同様に、優占種の違いもNEPに大きな影響を与えることが示された。