| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-PC-218  (Poster presentation)

雪害による樹冠欠損がスギの樹液流速に与える影響
The effect of canopy loss by snow damage on sap flow in Japanese cedar

*砥綿夕里花(岐阜大・応用生物), 斎藤琢(岐阜大・流域研)
*Yurika TOWATA(Fac Appl Biol Sci, Gifu Univ), Taku M. SAITOH(RBRC, Gifu Univ)

森林の水源涵養能を評価するため、スギ林蒸散量に関する研究が行われてきたが、その多くが自然撹乱をほとんど受けていない林分を対象としている。スギ林は雪害による自然撹乱を受けやすいことが知られており、雪害を受けたスギ林では、健全な個体とダメージを受けた個体が混在する、樹冠状態の不均一な林分となることが多い。したがって、樹冠状態が蒸散量の時空間的なばらつきにどのような影響を及ぼすのかを明らかにすることが重要となる。
そこで本研究では、蒸散量の指標である樹液流速を健全木(H)と雪害によって樹冠を一部欠損した樹冠一部残存木(BSc)で測定し、①樹液流速の季節変動とその環境応答特性、②個体間および個体内の樹液流速のばらつきについて、雪害による樹冠欠損がスギの樹液流速に与える影響を明らかにする。
 調査は岐阜大学流域圏科学研究センター高山試験地TKCサイトで行った。当該サイトは2014年12月に雪害を受けており、林内にはHとBScが混在している。調査はHおよびBScの各4個体を対象とし、各個体の樹液流速は東、西、北の3方位でグラニエ法によって測定した。また、葉量の指標として樹冠長を測定した。
 HとBScの樹液流速の季節変動に相違性はなく、両樹冠状態ともに大気飽差の増加に伴って樹液流速が増加する傾向があったことから、樹冠部を欠損した個体であっても健全木と同様の環境応答を行っていることが示唆された。しかし、調査期間中、HとBScの日中平均樹液流速には有意な差がみられ、Hと比較してBScは、期間積算で39.0%の樹液流速であった。葉量の指標である樹冠長が大きいほど日中平均樹液流速が高かったことから、BScの樹液流速が減少した主要因は雪害による樹冠部の欠損である可能性が高いと考えられる。また、樹液流速のばらつきについては、方位間、個体間ともにBScでのみ有意な差がみられ、雪害による樹冠欠損は、個体内および個体間の樹液流速の不均一性を増加させることが明らかとなった。


日本生態学会