| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-PC-226 (Poster presentation)
森林の炭素貯留機能や水質浄化機能における植生の役割を理解する上で、森林生態系内の炭素・窒素動態を把握することは重要である。管理放棄竹林の増加を背景とした森林植生への竹林の拡大は、森林生態系の公益的機能の低下を招く恐れがある。今後の竹林管理に向けた知見の蓄積のため、竹林と森林の生態系の違いを明らかにすることが求められる。本研究では同一斜面上に隣接したモウソウチク林(竹林)とスギ林において、炭素・窒素蓄積量と移動量の比較を行った。
竹林とスギ林に斜面下部から上部にかけて5つのプロットを設置し、各プロットにおける植生の炭素・窒素蓄積量、植生による炭素・窒素吸収量および還元量を評価した。また、竹林の斜面最上部、中央部、最下部およびスギ林の斜面中央部のプロットにおいて、地表から1 mの高さまでに存在する枯死稈や倒木などの粗大有機物、A0層および鉱質土層 (0-10 cm) を土壌の炭素・窒素蓄積量として評価した。
植生の炭素・窒素蓄積量の林分平均値は竹林よりもスギ林の方が大きかった。一方で、竹林の炭素・窒素吸収量はスギ林よりも大きかったため、植物体への炭素と窒素の平均滞留時間は竹林で短くなり、竹林では植生-土壌間の炭素・窒素の移動速度が速いことが示唆された。土壌の炭素・窒素蓄積量を比較すると、炭素量は竹林とスギ林で同程度であったが、窒素量は竹林の方がスギ林よりも大きかった。竹林のリターフォールによる炭素・窒素還元量はスギ林よりも大きかったため、A0層の炭素・窒素の平均滞留時間は竹林で短くなり、竹林ではスギ林に比べてA0層に蓄積された有機物の分解速度が速く、より多くの炭素・窒素が鉱質土層に移動している可能性が示された。スギ林との比較から、竹林の物質蓄積量は炭素と窒素で大きく異なること、竹林の生態系内では炭素や窒素が非常に早く移動していることが明らかになった。