| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-PC-228 (Poster presentation)
倒木や立ち枯れ木などの枯死木は,森林生態系における炭素プールとして機能する。そのため,物質循環過程の評価の観点から,枯死木の現存量および分解率の推定が行われている。そのような中で,腐朽に関わる分解者菌類の重要性が指摘されてきた。
切株は人工林において主要な枯死木であり,地下部の根系についても同様に分解率の推定等が進められている。しかし,根系の腐朽過程や分解者について検証した研究が少ないため,未解明な部分が多い。
そこで本研究は,切株における根系の腐朽過程の評価および関係する菌類の解明を目的とした。調査地は,施業履歴の明らかな長野県南部の50年生ヒノキ人工林とし,除伐や間伐後2~3年,7~8年,25~26年経過した切株およびその根系を用いて,クロノシーケンスによる検証を行った。調査では,切株から1 m範囲の根系を掘り取り,粗根に沿って腐朽の進行程度を5段階評価し,さらに材の表面圧縮強度の測定,ナイフテストを行った。また,一部の粗根よりDNA解析による真菌類の検出および同定を行った。
伐採後2~3年,7~8年の段階では,各根系で腐朽段階が一様ではなかった。伐採後2~3年の段階では木材腐朽菌が多く検出された。これに対して,伐採後7~8年の段階では腐朽菌は少なく,菌根菌が多く検出された。すなわち,伐採直後は腐朽の進行が著しく,その後,数年の経過の間には菌根菌の分布が拡大し,腐朽過程における菌類群集の構成が急速に変化することが示唆された。
伐採後25~26年の段階では,個体全体が均質な腐朽段階であり,ほぼ全ての辺材が腐朽していた。一方で心材は堅い状態で残存していた。さらに,根系からは子嚢菌類が多く検出されたが,木材腐朽菌類は検出されなかった。そのため,この段階では腐朽の進行がとどまっており,以降,心材部は長期の炭素貯留に寄与すると考えられた。