| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-PC-230 (Poster presentation)
マングローブは、熱帯環境での高い生産性と嫌気的土壌での低い分解性により、莫大な土壌炭素を貯留している。そのためマングローブでは、森林炭素動態の主要経路である土壌呼吸について多くの研究が行われてきた。マングローブは、海側から内陸に向かって樹種組成が不連続に変化する「成帯構造」を持つ。しかし、この成帯構造に沿った土壌呼吸の変化を調べた研究は少ない。また、土壌呼吸の季節性を調べた研究も少ない。本研究は、マングローブの土壌呼吸の時空間変化を明らかにすることを目的に、各植生帯における土壌呼吸速度の季節変化を調べた。
沖縄県西表島後良川には、海側から内陸に向かって、無植生帯、ヒルギダマシ、ハマザクロ、ヤエヤマヒルギ、オヒルギ、サキシマスオウノキ(以下サキシマ)優占群落がみられる。この6植生帯において4季節ごとに、土壌呼吸速度と表層土壌の化学性を調べた。土壌呼吸は、季節によらず最内陸のサキシマ群落が最大、ひとつ海側のオヒルギ群落でやや低下し、最も海側の4群落では顕著に低かった。この土壌呼吸の変化パターンと、溶存有機態炭素のそれは似ていた。土壌呼吸が内陸から海側に向かって低下したのは、内陸側は冠水頻度が低く酸化的で、微生物呼吸の制限要因である溶存有機態炭素が多いためだと考えられた。土壌呼吸は、植生帯によらず夏季が最大、冬季が最低、春・秋季がその中間であった。Q10(10℃上昇時の土壌呼吸の変化率)は、サキシマ群落(1.5)がヤエヤマヒルギ・オヒルギ群落(2.4-2.7)より低かった(より海側の群落はQ10が計算できなかった)。Q10は、土壌呼吸に占める微生物呼吸の割合が大きいと高くなる。マングローブの根呼吸由来CO2は気根から放出されたり気根での光合成に利用されるため、マングローブの土壌呼吸はほぼ微生物呼吸に起因する。サキシマ群落は陸域の森林のようであるため、ヤエヤマヒルギ・オヒルギ群落よりQ10が低かったと考えられる。