| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-PC-234  (Poster presentation)

長野県深見池に共存するミジンコ種内2系統の繁殖戦略
Reproductive strategies of two coexisting lineages of Daphnia pulex in Lake Fukami-ike

*平田優香(東京大学), 小田切悠(東京大学), 大竹裕里恵(東京大学), 吉田丈人(総合地球環境学研究所, 東京大学)
*Yuka HIRATA(University of Tokyo), Haruka ODAGIRI(University of Tokyo), Yurie OTAKE(University of Tokyo), Takehito YOSHIDA(RIHN, University of Tokyo)

種内の遺伝的多様性は個体群の適応や進化に重要である。一方で、同所に生息する種内の複数遺伝子型は、同じ資源を求める競争関係になり得る。ニッチ重複の大きな遺伝子型同士は強い競争にあり長くは共存できないと考えられるが、自然個体群の多くで複数遺伝子型の共存が確認されている。このため、同所共存する種内の複数遺伝子型には何らかの共存メカニズムが存在すると考えられる。
 日本に生息するミジンコ(Danphnia pulex)は、北米由来の4つの遺伝的系統(JPN1~4)から成り、いずれの系統も絶対単為生殖性である。先行研究により、長野県深見池に共存するJPN1とJPN2は、日長条件に対する繁殖形質の応答が異なっている可能性が指摘されている。環境条件への繁殖形質の応答の違いが2系統の時間的なニッチ分割をもたらすことで、2系統の共存機構の一つとなる可能性が示唆される。本研究では、この仮説の検証を試みた。まず、異なる日長条件下で各系統1クローンずつを混合培養する競争実験を行い、JPN1とJPN2の競争関係を検討した。次にクローンごとに異なる日長と餌条件下で培養実験を行い、繁殖形質(内的自然増加率と休眠フェーズ移行率)を評価した。これらから、2系統の繁殖戦略の違いが共存に寄与するか検討した。
 競争実験の結果、JPN2が長日条件と短日条件の両方で優占した。よって、JPN2はJPN1よりも競争に優位であるといえる。繁殖形質を評価した結果、いずれの条件でも内的自然増加率に系統間差異は見られなかった。一方、餌不足条件において、2系統は異なる繁殖フェーズを選択しており、JPN1は休眠フェーズへ移行し、JPN2は急発卵の生産を維持した。この結果から、餌資源が枯渇すると、競争優位のJPN2は急発卵での増殖を続ける一方、JPN1は休眠フェーズへ移行してJPN2との競争を回避すると考えられた。このような繁殖フェーズの選択の違いによって、2系統は異なるフェーズ下で個体数を維持し、共存が成立した可能性が示された。


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