| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-PC-236 (Poster presentation)
緯度に伴う気温の違いは生物に様々な地理的変異を引き起こす。近年、メダカにおいて雄間闘争の強さの地理的変異が明らかにされたが、このような地理的変異の例は珍しく、他の生物では知られていない。サンショウウオ科の一部では温暖な地域ほど全長が長く、そのような雄は繁殖期間が長いことが知られている。そのため温暖な地域では個体同士の繁殖期間が重複しやすく、全長が長い雄ほど卵のうを巡る雄間闘争が強くなることが考えられる。クロサンショウウオは福井から青森まで分布し、雄は頭胴長が長いと抱接時に卵のうを独占しやすいことが知られている。そのため本種でも温暖な地域ほど全長が長いのであれば、それによって雄間闘争が強いために、頭胴長が長い可能性がある。もし雄間闘争によって頭胴長の地理的変異が進化したならば、環境条件を揃えて飼育しても、温暖な地域のほうが寒冷な地域の個体よりも頭胴長が長くなることが考えられる。そこで石川2集団と青森2集団から卵のうを採集し、卵から68個体を飼育したところ、温暖な石川の方が青森より全長が長く、頭胴長も長かった。このことから全長と頭胴長の長さは遺伝的に決まっていると考えられる。この地理的変異が系統関係を反映したものであるかを調べるため、本種を62地点で採集し、401個体のmtDNAのCytb領域を用いて系統解析を行った。その結果、本種は中部と東北の2系統に分かれることがわかった。この系統解析の結果をもとに野外個体において地理的変異が存在するのかを調べるため、雄成体454個体と、比較のために雌成体113個体の全長と頭胴長を測定し、系統間で全長と頭胴長の長さに違いがあるのかを調べた。その結果、雌では中部と東北で差が無いのに対して、雄では中部の方が東北よりも全長と頭胴長が長かった。以上より、全長が長い中部のほうが東北より雄間闘争が強いため、頭胴長の長い形態に進化した可能性が考えられる。