| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-PC-237 (Poster presentation)
採餌行動に関わる形態は採餌機能の効率に対する自然選択を通して、捕食者の適応度を左右する重要な形質である。そのため、利用する餌生物に対応した形態的分化が個体群間で生じることが期待される一方で、個体群間の遺伝的交流によっては、局所的な環境への適応がさまたげられる可能性がある。そこで本研究は日本列島に広く生息し、かつ地域毎に食性が異なるシマヘビElaphe quadrivirgataを対象に、形態形質として頭部形態と腹板数を選び、自然選択の強さと形態的分化との対応関係を個体群間で比較検討した。解析には、採餌成功と繁殖成功を結び付ける適応度の代替指標として肥満度を採用した。調査地には、互いに遠隔で遺伝的交流が少ないと期待される個体群として伊豆諸島の祇苗島(海鳥食)、新島と神津島(トカゲ食)、秋田(カエル食)を選び、遺伝的交流が大きいと予想される近接個体群として、伊豆半島の水田(カエル食)と林道(トカゲ食)、佐渡島の水田(カエル食)と河川環境(ハゼ類)を選んだ。食性タイプ別に頭部形態と腹板数に対する自然選択の強さと方向性を比較したところ、遠隔個体群間では、選択が作用する形質は食性タイプごとに異なり、形態的な分化が生じていた。近接個体群の比較では、伊豆半島のトカゲ食とカエル食個体群間で自然選択の方向と強さに差が見られ、頭部形態が有意に分化していた。しかし、佐渡島のハゼ食とカエル食個体群間では、自然選択が働く形質がはっきりと異なっていたにも関わらず、形態の分化は検出されなかった。今後、個体群間の遺伝的交流を自然選択の方向と強さと共に定量的に評価し、適応的分化が起きる条件を明らかにしたい。