| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-PC-241  (Poster presentation)

C. inopinataの体サイズ進化に転移因子が与えた影響
The effects of transposable elements on the evolution of the body size in Caenorhabditis inopinata

*河原数馬, 稲田垂穗, 牧野能士, 杉本亜砂子, 河田雅圭(東北大学)
*Kazuma KAWAHARA, Taruho INADA, Takasi MAKINO, Asako SUGIMOTO, Masakado KAWATA(Tohoku University)

近年発見された線虫Caenorhabditis inopinataはモデル生物C. elegansの姉妹種でありながら、生活環境や体サイズなど生態的、形態的に大きく異なっている。このような大きな変化を可能にする仕組みは、未だ解明されていない進化学上の大きな問題の一つである。C. inopinataのゲノム構成の特徴として、転位因子がC. elegansと比べて非常に多いということが知られている。転位因子とは宿主のゲノム複製とは独立にゲノム上で増幅する塩基配列であり、変動環境下で突然変異率を増加させたり、近傍遺伝子の発現を変化させたりすることによって進化を促進する可能性が示唆されている。本研究ではC. inopinataで生じた体サイズの進化に、転移因子が持った役割を解明することを目的とした。
これまで、二種の各遺伝子の内部と近傍2000bpにおける転位因子の挿入状況を調べ、先行研究(Inada et al. in prep.)で調べられた二種間で成長率に差が出るL4幼虫期とYoung Adult期の遺伝子発現量を用いることで、転位因子と遺伝子発現量の関係を調べてきた。まず、各線虫の遺伝子を二種の転位因子の有無の組み合わせで4群に分け、群間の発現量の分布の差を調べた。両種のどちらにおいてもC. inopinataに転位因子がある遺伝子群は発現量が有意に低いという結果が得られた。次に、転位因子の挿入がある遺伝子に対して種間の発現変動遺伝子のエンリッチメントを調べた。その結果、有意なエンリッチメントはなかった。これらより、C. inopinataの転位因子は二種の線虫の共通祖先で既に発現量が低い遺伝子近傍に多く存在しており、発現を変動させている転位因子は少ない可能性があると考えられる。今後は、調節領域を保持している転位因子など、より影響が大きい可能性がある転位因子に着目して発現量との関係を調べていく。


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