| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-PC-242  (Poster presentation)

トンボ科昆虫における精子競争がもたらした雌雄の交尾器形態の共進化
Coevolution of genital morphology between male and female caused by sperm competition in libellulid dragonflies

*渡邊涼太郎, 池田紘士(弘前大学・院・農生)
*Ryotaro WATANABE, Hiroshi IKEDA(Hirosaki Univ.)

 交尾器の形態は、他の形態と比較して種間の多様性が著しいことから、最も進化速度の速い形態形質とされている。現在までの研究から、交尾器の進化要因は主に交尾後の性選択であるといわれているが、その多くが雄の交尾器の進化に関する研究であり、雌の交尾器について調べた研究は少ない。交尾器は雌雄が接合する器官であるため、交尾器の進化機構を明らかにするには雌雄両方について考えることが重要である。
そこで、雌雄共に特殊化した交尾器を持つトンボ科昆虫に注目した。雄はフック状の器官によって精子を掻き出すことで精子競争を回避する。一方で雌は交尾嚢と受精嚢という袋状の精子貯蔵器官を持っており、雄の掻き出しが行われる場となる。そのため、雄の特殊な進化による雌の進化をみる材料として適している。よって本研究では、トンボ科昆虫の雌雄の交尾器形態を種間で比較することで、精子競争によって特殊化した雄交尾器に雌交尾器が相関して進化しているかを検証した。
まず、トンボ科15種を対象として、種間の進化的な関係を調べるために系統樹を構築し、雌雄の交尾器形態について独立比較法を行った。系統樹の構築にはmtDNAのCOI領域、核DNAの28S、EF1-α領域を用いた。雄の形態として、フック状器官の長さと、精子量の指標となる小球部の体積を用い、雌の形態として、交尾嚢と受精嚢の体積を用いた。その結果、雄の小球部と雌の受精嚢の体積が正に相関することが示され、雄のフック状構造と雌の交尾器には相関はみられなかった。また、相関のみられた形態について、系統樹上に祖先形質を復元して比較し、形態間の進化パターンが相関しているか調べた。その結果、小球部と受精嚢は同様の進化パターンを示し、これらの形態の雌雄間での共進化が示唆された。これらの結果から、雄による精子置換ではなく、雄の精子量と雌の交尾器に進化的な相関があることが示唆された。


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