| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-PC-244 (Poster presentation)
自然界では極端に誇張された性的形質がしばしば見られる.これまで誇張された性的形質のコストとベネフィットは調べられてきたが,誇張化の背景にある発生過程については,未だほとんど分かっていない.そこで本研究は,雌雄の交尾器形態が種特異的に多様化しているオオオサムシ亜属に属し,極端に長く大きな交尾器をもつドウキョウオサムシを対象に,交尾器形態の誇張化をもたらす発生過程を解明する事を目的とした.
蛹の各発生段階のサンプルを,ヨウ素染色の後にマイクロCTで観察した(蛹期は14日).その結果,誇張された雄交尾器部位である交尾片は,蛹化後4日齢で形成が開始され,14日齢まで伸長を続けた.交尾片の形成が開始するタイミングは,比較的長い交尾片を持つ近縁種マヤサンオサムシと同じで,より短い交尾片を持つ近縁種イワワキオサムシ(蛹化後6日齢)よりも早かった.また,雄の交尾片と対応する雌交尾器の膣盲嚢は,観察開始時点である蛹化後2日齢ですでに形成されていた.これは,マヤサンオサムシとイワワキオサムシと同じ結果であったが,ドウキョウオサムシの膣盲嚢は,蛹化後2日齢において既により長かった.
ドウキョウオサムシの交尾片が巨大であるにも関わらず,より短い交尾片を持つマヤサンオサムシと形成開始のタイミングが同じであることは,交尾片の形成開始は前倒しできないことを示唆している.ドウキョウオサムシの蛹期が他種よりも2日ほど長いのは,交尾片の伸長期間を延長するためかもしれない.また,マヤサンオサムシとイワワキオサムシの間では,形成開始のタイミングが種間差に寄与していたが,ドウキョウオサムシとマヤサンオサムシの間では,成長率が種間差の要因かもしれない.ドウキョウオサムシの膣盲嚢は,2日齢の時点で他種より伸長していることから,発生開始の前倒しが可能であり,メス交尾器の種間差には形成開始タイミングの差が寄与している可能性がある.