| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-PC-248 (Poster presentation)
種多様性の高い熱帯雨林には多くの近縁樹種が同所的に生育している。同所的近縁種の中には、現在、広い地域に分布している「広域分布種」と分布が特定の地域に限られている「固有種」が存在する。広域分布種と固有種の系統関係がわかれば、これらの種の多様化過程の理解に役立つだろう。多くの固有種が新しく分岐した同じ系統に属する場合、それらの固有種は、最近、その地域である祖先種から種分化したと推定される。一方、様々な系統で固有種と広域分布種が混在している場合、固有種は複数の祖先種から独立に進化したと推定される。また、種分化に伴ってニッチがどう多様化したかがわかれば、種の多様化におけるニッチ多様化の意義を推測することができるだろう。そこで、ボルネオ島のランビルヒルズ国立公園の同所的近縁種が多いカキノキ属34種を対象として、次世代シーケンサーを利用したGRAS-Di解析を用い、ベイズ法(BEAST2)で系統樹と分岐年代を推定した。また、4回の全木センサス等から得られた生態特性データ(葉サイズ、最大直径、死亡率、更新率、成長率、ハビタット)を使って各種のニッチ多様化の過程をBayesian Analysis of Macroevolutionary Mixtures(BAMM)で推定した。その結果、1)広域分布種を多く含む今から2千万年以前に多様化が進んだ系統とボルネオ島固有種を多く含む2千万年以降に多様化した新しい系統に分かれる、2)固有種の多い系統には最大直径が小さい種が多く生活型ニッチの多様化は見られない、3)固有種の多い系統ではハビタットニッチが近縁種間でも大きく異なりニッチ多様化が進んでいる、4)ハビタットの多様化速度は2千万年前以降に増加したと推定される、ことが明らかになった。これらのことから、調査地のカキノキ属では、主に2千万年以前に分岐し広域に分布するサイズの大きな種と2千万年以降にボルネオ島でハビタットニッチの多様化を伴って分岐したサイズの小さなボルネオ島固有種が同所的に生育していると考えられた。