| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-PC-250 (Poster presentation)
メタ個体群において移出と移入に偏りがある場合、移出の多い個体群からは多くの個体がメタ個体群中に広がり、移入の多い個体群はその受け皿となる。このようなメタ個体群構造をソース・シンク構造といい生態学や疫学の観点で大いに関心を持たれている。本研究では、宿主の移動分散の偏りによるソース・シンク構造が病原体の毒性の進化に与える影響を理論的に明らかにするため、同等な局所個体群が移動分散によってつながったメタ個体群モデルを構築し、そのモデルのもとで病原体の毒性の進化動態を解析した。
その結果、個体群間の移動分散が均一であるときには単一の完全混合個体群の場合と等しい毒性が進化することがわかった。そして、宿主の移動率が各個体群間で異なる、つまり移動分散に不均一性がある場合には単一個体群の場合よりも常に高い毒性が進化することがわかった。メタ個体群のネットワーク構造にかかわらず、移動分散の不均一性は「ソース・シンク構造指標」Dという定量的な値で表すことができ、この値に近似的に比例した毒性が進化することが一般に示された。
ソースとなる個体群では多くの宿主が流出するため、低密度環境で新生個体(垂直感染がなければ未感染者)の更新が活発になる。したがってソースでは、より高い毒性を持ち新たな宿主に次々と感染することが進化的に有利となる。一方でシンクとなる個体群では多くの宿主がソースから流入することで新生感受性個体の更新は抑制されてしまうため、毒性を抑えて感染の機会を待つことが進化的に有利となる。しかし、シンク個体群からはあまり個体が流出しないためメタ個体群全体への進化的な影響力は低く、特に移出が殆ど無い場合にはシンク個体群は進化的な袋小路となる。ゆえにメタ個体群全体では、ソースで有利となる形質、つまり「より高い毒性」が有利となり、その度合は移動分散の偏りが大きいほど強くなると考察する。