| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-PC-251  (Poster presentation)

進化速度が繁殖的・生態的形質置換に与える影響
Effects of the speed of evolution on reproductive and ecological character displacement

*森田慶一(慶應義塾大学), 山道真人(東京大学)
*Keiichi MORITA(Keio Univ.), Masato YAMAMICHI(Univ. Tokyo)

近縁種間で形質が分化する「形質置換」には、資源競争の結果生じる「生態的形質置換」と、繁殖干渉の結果として交配前及び交配後隔離の強化が起こる「繁殖的形質置換」がある。形質置換によって形質が分化することで、群集レベルの正の頻度依存性選択が、負の頻度依存性選択に変化し、多種が安定して共存することができる。そのため形質分化の過程は、適応進化によって絶滅を回避する「進化的救助」の一種と見ることもできるが、両者が同じ文脈で議論されることは少ない。

そこで本研究では、2種間の繁殖干渉と資源競争を考慮したSchreiber et al. (2019)の個体群動態モデルに量的形質の進化動態を加えることで、進化速度が絶滅・共存に与える影響を調べた。2種の繁殖形質値の差が小さいほど繁殖干渉が強い場合には、適応進化は形質差を大きくする方向に働き、最終的に繁殖的形質置換が起こる。初期状態において正の頻度依存が強くとも、進化が十分に速く起きる場合には、形質置換によって絶滅が回避され、2種が共存する。同様に、生態的形質の差が小さいほど資源競争が強い場合、適応進化によって形質差が大きくなり、生態的形質置換が起こって競争排除は回避される。

生態進化動態のシミュレーションの結果、繁殖的形質置換の方が、生態的形質置換よりも進化速度に影響されやすいことがわかった。これは、繁殖的形質置換による共存では、繁殖干渉によって少数派の種が絶滅する閾値が常に存在し、個体数が閾値よりも減少する前に形質が分化する必要があるためである。その一方で、生態的形質置換による共存では、共存平衡点が大域安定になると、決定論的絶滅が起こる閾値が存在しないため、進化がそれほど速くない場合にも、絶滅が起こらずに共存状態に到達することが可能になる。


日本生態学会