| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-PC-252  (Poster presentation)

分布拡大における無性生殖の利点:遺伝子流動の抑制による局所適応の促進
Advantages of asexual reproduction in range expansion: release from migration load promotes local adaptation

*佐藤雄亮, 瀧本岳(東京大学)
*Takeaki SATO, Gaku TAKIMOTO(Univ. Tokyo)

有性生殖は無性生殖よりも環境への適応が速いと言われている。染色体の組換えによって、適応的な変異を蓄積しやすいと考えられるからである。一方、無性生物の方が、近縁の有性生物よりも広く分布するということも古くから知られおり、地理的単為生殖(geographic parthenogenesis)と名付けられている。なぜ適応に不利と考えられる無性生物の分布域が、適応に有利と考えられる有性生物より広くなるのだろうか。本研究では遺伝子流動が局所適応に与える影響に注目し、この現象の説明を試みた。有性生物では、異なる環境の生息地から移住してきた個体が繁殖をおこなうと、異なる環境に適応した遺伝子が個体群内に拡散してしまい、局所適応が妨げられる。一方、無性生物であれば、移住個体と先住個体との間で遺伝子が混ざることはない。その結果、無性生物では分布を広げる際、それぞれの環境に適応した個体群が成立しやすいのではないかと考えた。この仮説を空間明示的な個体ベースシミュレーションによって検証した。本モデルから、移動分散が起こりやすくなるに従って次の4つのパターンが見られた:(1)有性生物も無性生物も分布が制限される、(2)有性生物の分布がより広くなる、(3)無性生物の分布が有性生物より広くなる、 (4)有性生物、無性生物ともに空間全体から絶滅する。移動分散の程度が極端な場合を除くと、移動分散すなわち遺伝子流動の変化に対して仮説を支持する結果が得られた。特に、移動分散が起こりにくい場合に(2) 有性生物の分布が無性生物より広くなった。これは、遺伝子流動の影響が少なければ、本モデル上でも有性生殖が局所適応に有利であることを示す結果である。これらの結果から、有性生殖では遺伝子流動によって局所適応が妨げられやすいことで分布域が制限されるが、無性生物は遺伝子流動から解放されることで分布制限が起こりにくいという仮説によって、地理的単為生殖を説明することができた。


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