| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-PC-253 (Poster presentation)
メスが出自集団を移籍し、オスが生涯出自集団内に留まり続ける「父系型社会」を形成する種は生物全体の中で珍しい。この進化シナリオを説明する代表的な仮説の一つがMale-bonding仮説である。この仮説によれば、血縁関係のあるオス同士が協力して他集団のオスからメスを護るように選択され、その結果としてオスが出自集団に残るようになったと考えられる。しかしながら、同一集団内のオスが他集団のオスと比べ、血縁で結びついているという実証的なデータはほとんどない。本研究では父系社会を形成する野生ボノボ3集団、野生チンパンジー2集団を対象に、集団内のオス間血縁度を、異なる集団のオス間のそれと比較した。全オトナオスから非侵襲的にDNAを得、全個体の常染色体マイクロサテライト8座位の遺伝子型を決定した。そこから全オス間の血縁度を推定した。両種のほとんどの集団において、集団内のオス間の平均血縁度が異なる集団のオス間のそれよりも高い値を示した。集団内のオス間平均血縁度と異なる集団のオス間平均血縁度の間の有意差は、ボノボでのみ見られた。集団内のオス間の血縁が異なる集団のオス間のそれよりも強いという傾向は、父系型の社会構造、および子の父性が特定のオスに大きく偏ることに起因していると考えられる。本研究結果により、大型類人猿の父系型社会におけるMale-bonding仮説が遺伝的に支持された。