| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-PC-257  (Poster presentation)

マヤサンオサムシの交尾器形態にはたらく強化淘汰の検出
Reinforcing selection acting on genital morphology of the ground beetle Carabus maiyasanus

*西村太良, 高見泰興(神戸大学)
*Taira NISHIMURA, Yasuoki TAKAMI(Kobe University)

 生殖隔離の進化は種分化の重要な過程であり,種間の交尾器形態の不一致による機械的隔離はその要因の一つである.祖先種が異所的に分化した後,二次的接触による分集団間の交雑が生じた時,不適応な雑種形成や交尾器の損傷といった交雑コストを避けるように生殖形質が分化すると予測される(生殖隔離の強化による生殖的形質置換).しかし,これまで共存する近縁種間における交尾器形態の生殖的形質置換を検出した例はあるが,交尾器形態にはたらく強化淘汰を検出した研究はない.
 オオオサムシ亜属は種特異的で多様な雌雄交尾器を持ち,種間の交尾器形態の不一致が生殖的隔離機構として働いている.中でも,姉妹種のマヤサンオサムシとイワワキオサムシには,側所的に分布が接触する集団がある.マヤサンオサムシの雌雄の交尾器形態は,接触集団でイワワキオサムシとの種間差が増加するような生殖的形質置換を示す.そこで本研究は,マヤサンオサムシの接触集団における交尾器形態の変異をもたらしたと考えられる強化淘汰を検出するため,マヤサンオサムシとイワワキオサムシの種間交雑コスト(時間的コスト:交尾時間・物質的コスト:精包重量)を定量し,雌雄交尾器形態の集団内変異との関連を検討した.
 長い雄交尾器は,接触集団で時間的コストを低減したが,単独集団ではそのような傾向は見られなかった.また,長い雌交尾器は,一部の接触集団で時間的コストと物質的コストをそれぞれ低減したが,単独集団では逆に時間的コストと物質的コストの両方を増加させた.これらの結果から,イワワキオサムシと分布を接するマヤサンオサムシ集団では,長い雌雄交尾器が交雑コストを回避する点で有利であることが明らかとなった.これは,マヤサンオサムシの交尾器形態にみられた形質置換が,イワワキオサムシとの交雑の際に働く強化淘汰によってもたらされた可能性を示唆する.


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