| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-PC-258  (Poster presentation)

チリメンカワニナにおける標高間での遺伝子流動による局所適応の阻害
Preventing local adaptation via altitudinal gene flow in the freshwater snail, Semisulcospira reiniana

*吉田琴音, 高橋佑磨(千葉大・院・理)
*Yoshida KOTONE, Yuma TAKAHASHI(Grad. Sci., Chiba Univ.)

生物は生息域の外側の新規環境への局所適応を通じて生息域を拡大できる可能性をつねに有しているはずであるが、現実には各生物種の分布は限定的である。このことは、適応進化を制限する何らかの要因の存在を示唆している。理論的には、適応進化の制限要因としてさまざまな遺伝荷重の存在(突然変異荷重など)が指摘されているものの、野外においては非適応的な対立遺伝子の恒常的な流入に起因する遺伝荷重、すなわち移住荷重がもっとも一般的であると考えられている。河川では上流から下流へ受動的な個体の移動が恒常的に起きるため、勾配の急な河川ほど下流側の集団では非適応的な遺伝子が流動しやすく、結果として適応進化が阻害される可能性がある。本研究では、河川の淡水域から汽水域に分布する巻貝のチリメンカワニナを用いて、環境の異なる標高間の移出入が個体群の局所適応を阻害するかを検証した。まず、環境に対する適応の指標として、河川のさまざまな環境で採取した成貝に由来する胎貝あるいは稚貝を用いてサイズと形態、塩分耐性の計測を行った。サイズは、河床勾配の緩やかな河川でのみ標高間で差異が認められた。ランドマーク法を用いた形態幾何学的解析では、いずれの河川でも標高間の形態差を検出することができなかった。実験室内で産仔された稚貝を用いて塩分耐性を測定したところ、勾配の緩やかな河川では下流域における塩分耐性の増加が認められたが、急峻な河川では上流と下流で耐性に差は見られなかった。これらの結果は、急な河川では標高間での遺伝子流動が生じやすく、結果として下流域での局所適応が成立しにくくなっていることを示唆している。本発表では、RAD-seqを用いた集団遺伝学的解析の結果を加えて、移住荷重による適応阻害や分布拡大の制限機構について考察する。


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