| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-PC-263 (Poster presentation)
アリとアブラムシは、相利共生の典型的な例としてよく知られている。アリはアブラムシと栄養共生し、アブラムシはアリ随伴による保護サービスを享受するというメリットがある。互いにこのようなメリットしかないのであれば、全てのアリ-アブラムシ系は相利共生ばかりになってしまいそうであるが、実際はそもそもアリ随伴を受けないアブラムシもいる。この原因のひとつとして、アリ随伴にはアブラムシにとってメリットだけでなく生理的コストもあるからだという考えがある。共生の裏に隠れたコストについて、これまでは、コスト項として Functional Response を導入する数理モデルが提案されてきたが、私たちは内的自然増加率と誘引率の間にトレードオフを導入する数理モデルを提案する。さらに、アリ-アブラムシ系ではアリが密度に依存してアブラムシを捕食することが知られているので、多くの共生系が prey-predator の関係から進化してきたことも考慮して、モデルにアリによるアブラムシの捕食の項を組み込み、解析を行った。結果、r が高くなるとアブラムシ平衡個体数に分岐が生じ、r の中間値では平衡個体数が最も少なくなる場合があることがわかった。つまり、ただ共生関係を緊密にすればよいということではなく、自力で増殖する戦略も進化しうることがわかった。これは比較検証した、緊密な共生関係の方が平衡個体数が大きくなるという捕食なしモデルとは異なる性質であった。またアリのアブラムシ依存性が弱まると、アブラムシが自力で生きていく際のハードルが下がるという結果も得られた。アブラムシ依存性が弱まると、アリが単独で系から出て行きやすくなる。つまり「アリが一途でない方が、アブラムシが生存しやすい」という、従来の共生系に対する見方とは一見相反する状況を予測する結果が得られた。