| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-PC-265 (Poster presentation)
不耕起栽培・輪作・有機物マルチに代表される保全農業(Hobbs et al., 2008)は、土壌の生物多様性を維持することで農地の長期的な劣化を防ぐとともに土壌生物の多様な機能を利用した農業をめざしているが、現代的な集約農業と比べて高い利益を出しにくいと言われてきた。しかし、近年、土壌生物の活動が作物にプラスの効果をもたらすデータが集まってきた。土壌生態系が作物の成長や栄養循環にプラスにはたらく生態学的な条件を明らかにできれば、低いコストで高い利益と農地の長期的なレジリエンスを兼ね備えた農業の実現が期待される。本研究では、農地生態系の数理モデルを解析することで、保全農業と集約農業の栄養循環の特徴の違い、および高い作物収量が得られる生態学的条件について検討した。
今回の発表では、栄養塩プール-植物(作物)-植物デトリタスの3つのコンパートメントと流入栄養塩(自然由来+施肥)およびその流出で構成される農地生態系モデルを構築し、農地生態系を特徴づけるパラメータが作物の動態や栄養塩の循環に及ぼす影響を解析した。また、作物が必要とする栄養塩(C, Nなど)が2種類ある場合についてモデルを拡張し、成長に必要な栄養塩比の違いが作物の収穫量や栄養循環に及ぼす影響を解析した。まず栄養塩を1種とした場合、栄養塩の流入量がある閾値を超えたときに作物のバイオマスが安定な平衡状態に達する。このとき、土壌中の栄養塩量は作物のバイオマスや流入する栄養塩量に関わらず一定であったが、作物のバイオマスはデトリタスの分解速度(即ち、土壌微生物の分解速度)に比例して大きくなった。また、栄養塩の流入量に対する作物の収穫量(効率)は、3つのコンパートメントの栄養塩比が特定の条件下のときに高くなった。発表では、解析結果の詳細とともに、保全農業の実践の上でどのような示唆が得られたかについて議論する。