| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-PC-270 (Poster presentation)
秦野市名古木の棚田は、多くの湿田が残されており、昔ながらの稲作が現在でも行われている。その湿田環境に生育する希少植物の分布と土壌中に存在する植物の散布体バンクを明らかにするため、約3年間の野外調査を実施した。調査地の水田内において、月2回の植物相の調査を実施し、また、水田土壌を用いて撒き出し法により散布体バンクからの植物発芽個体数および種名の記録を行った。
その結果、合計70科252種の植物が確認された。その中で、環境省もしくは神奈川県のレッドリストに掲載されている絶滅危惧植物は、種子植物であるミズオオバコおよびイトトリゲモ、シダ植物のミズニラ、コケ植物のイチョウウキゴケの4種であった。また、県の準絶滅危惧種に選定されているウキゴケも確認された。その中のイトトリゲモは、調査を実施した約8割の水田において確認され、広範囲に分布していることが明らかになった。それに対して、ミズオオバコとミズニラは、1割程度の水田からしか確認できず、しかも個体数も10個体程度と非常に少ない値であった。一方、散布体バンクの撒き出し栽培実験(A)の結果としては、絶滅危惧植物としてイトトリゲモが確認され、耕作田土壌から休耕田土壌まで広範囲に散布体が存在していることが明らかになった。休耕田のみで実施した撒き出し栽培実験(B)では、絶滅危惧植物のミズニラが確認され、その散布体は地表面に近いところ(0~5cm)から深さ25cmまでにおいて確認され、地表面に近いところほど大きな個体が出現した。また、2つの撒き出し栽培実験では、ミズオオバコとイチョウウキゴケは確認することができなかった。
以上の結果より、本調査地においては水田に現存する個体が少なかったミズオオバコとミズニラを早急に保全する必要があり、その中でもミズニラについては土壌中に休眠胞子が多く存在していることが明らかになったため、それらを今後の保全活動に利用することが望まれる。