| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-PC-271  (Poster presentation)

雪解けの違いに対する高山性草本植物の生長応答 【B】
Growth responses of alpine herbs to the variation in snow-melt time 【B】

*重枝絢, 工藤岳(北大・環境)
*Jun SHIGEEDA, Gaku KUDO(Env. Sci, Hokkaido University)

多雪山岳地域では、低温と長い積雪期間により高山植物の生育期間は制限されている。特に雪解けの遅い雪田環境では、雪解けの遅れに伴い生育開始時期が遅くなり、生育可能期間が短縮される。雪解けの遅い場所に生育している個体群はシーズンあたりの生育期間を確保するために、 (1) 雪解け後に直ちに生長を開始する、(2) 生長速度を高めて早く伸長生長を完了するなどの応答が予測される。雪解け傾度に沿って雪田植物の生長パターンを比較することにより、この予測の検証を試みた。
 北海道大雪山系の雪田で、3種の夏緑性草本植物(ミヤマキンバイ、ハクサンボウフウ、コガネギク)を対象に、伸長生長パターンと繁殖個体のパフォーマンスを雪解け時期の異なる3個体群で計測した。生長パターンはロジスティック曲線に当てはめを行い、生長開始時期と伸長生長期間の解析を行った。さらに、気温データから生長に要する有効積算温度を個体毎に算出し、温度要求性の違いを検討した。
 すべての種で、雪解けの遅い場所ほど生長開始を早め、伸長生長期間は短縮した。成長開始までの積算温度に個体群間の違いはなく、生長開始の早まりは気温の上昇を反映したものと考えられた。一方で、伸長期間中の積算温度は雪解けの遅れに伴い減少した。つまり、雪解けの遅い個体群は急速に生長できる性質を有していた。
 繁殖個体のパフォーマンス(植物高・葉群層の体積・葉数・花数)を比較した結果、3種間で共通するような傾向は見られなかった。ミヤマキンバイは雪解けが遅いほどパフォーマンスが低下した。ハクサンボウフウの草丈は雪解けが中程度の場所で大きかったが、それ以外の性質は違いがなかった。コガネギクの葉数は個体群間で差がなかったが、他の項目は雪解けが中程度の個体群で大きくなる傾向があった。生育シーズンの短縮に対する感受性は種間で異なるが、いずれの種にも成長速度を早める選択圧が作用している可能性が示唆された。


日本生態学会