| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-PC-273 (Poster presentation)
植物には花を介した種子繁殖に加え、クローン成長により新たなシュートを生産するものが存在する。このような植物をクローナル植物と呼ぶ。本研究の対象種であるスズラン(Convallaria keiskei)もクローナル植物であり、強い芳香を持つ花と地下茎の伸長によるシュート形成を行う。クローナル植物では、個々のシュートをラメット、同じ遺伝子をもつシュートの集合をジェネットと呼ぶ。北海道十勝地方の林床で行われた先行研究(Araki et al. 2005, 2007)では、種子繁殖に関しては、自家不和合性を持ち虫媒により種子生産が行われることが明らかになっている。つまり、種子生産には昆虫による異なるジェネット間での花粉の授受が必要となる。したがって、単一ジェネットで構成された集団では、仮に集団サイズが大きく十分な昆虫の訪花があったとしても、種子繁殖は十分に機能しない。先行研究が行われた集団は林床性で、集団サイズが大きく、多くの異なるジェネットがクローン成長によりモザイク状に広がり、互いに接することで両繁殖システムが機能していることが明らかにされている。
本研究は、上述の林床性の集団の研究結果を受け、北海道の海岸部を含む多様な環境に生育するスズラン集団を対象として、種子繁殖とクローン成長がどのように機能し、各集団が維持されているのかを明らかにするために行った。道内各地の24集団を対象に、種子繁殖の程度、交配様式、遺伝的多様性に関する調査を実施した。その結果、いずれの集団も種子繁殖に関しては自家不和合性を示す一方で、林床性の集団は多数のジェネットで構成され、海岸部に代表される開放性の集団は少数のジェネットで構成されていることが明らかになった。従って、林床性の集団は種子繁殖とクローン成長の両方によって維持されているが、開放性の集団では種子繁殖は十分に行われず、主にクローン成長により集団が維持されていることが示唆された。