| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-PC-277 (Poster presentation)
温帯域の山地では、温暖化によって等温線の上昇や開葉の早期化に伴う晩霜害の増加が予想される。北日本の多雪山地に優占するブナ Fagus crenata は開葉が早いために晩霜害を被りやすい。このため、開芽前の凍結低温に対する開芽積算温量(開芽に要する積算温量)の可塑性の有無とその程度にどのような集団間・集団内変異があるかを明らかにすることは、将来の気候温暖化に伴う晩霜害の増加に対する開葉時期の進化的応答の予測に不可欠であるが、このような凍結低温による開葉時期の可塑性に関する知見は蓄積されていない。そこで本研究では、春季の凍結が本種林冠木の開葉時期に及ぼす影響を解明することを目的とした。
青森県八甲田連峰において、標高や晩霜頻度が異なる調査地を4地点設置し、1地点当たり31~59個体のブナ林冠木について開葉日と気温の観測を行った。その結果、高標高域や晩霜頻度の高い地点に生育する集団ほど開芽積算温量が大きくなる傾向が認められた。さらに、これらの4地点に生育する一部の個体を対象とし、切枝を用いた低温曝露実験を行った。2月下旬~5月中旬にわたって実験対象個体から切枝を4回採取し、冷凍庫内で3種類の低温(0℃、-5℃、-10℃)に曝露させた後、圃場(弘前市)に置いて開葉日と気温の観測を行った。その結果、より低い温度に曝露された切枝ほど開葉が遅く、低温曝露によって開葉が遅延することが明らかとなった。一方、早い時期の低温曝露に対しては可塑性を示さない傾向が認められた。この傾向には集団内変異があり、調査地点において開芽日が早い個体ほど、より早い時期の低温曝露に対しても可塑性を示した。これらの結果は、開葉時期が早い個体ほど休眠解除時期が早く、より早い時期に生じる凍結低温に応答していることを示唆している。以上の結果より、開芽前の凍結低温に対する開葉日の可塑性は、ブナの開葉時期に集団間・集団内変異をもたらす要因となると考えられる。