| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-PC-278 (Poster presentation)
生物における適応放散現象は,種密度が低く環境異質性の高い海洋島で起こりやすい.小笠原諸島には適応放散により生じたとされる植物が多いが,そのうちトベラ属は属内固有種数が最多の4種を誇る.これまでの分類学的研究から,これら4種は形態的に識別でき,自生地の光環境によってすみ分けているとされる.一方で,ITS領域による分子系統解析の結果からは,4種は単系統性を示すものの祖先多型の共有があることから遺伝的に未分化な状態であることが示唆されている(著者ら,未発表).こうした結果は,小笠原諸島のトベラ属植物が単一祖先に由来し,自然選択が関与する急速な種分化を起こした可能性を示している.そこで本研究では,放散的種分化を引き起こした要因として光環境に着目し,各種の表現型が生育環境の光条件に適合しているのかを検証した.手法として,対象4種について,葉の構造観察と形態計測・クロロフィルa/b比の測定・PAM蛍光法による光合成特性の評価を行った.
4種のうちコバトベラでは,最も厚く最小サイズの葉をもち,直射日光があたる乾燥環境に適した形態をとっていた.クロロフィルa/b比においても,コバトベラで最も高い値が得られたのに対し,林内で低木として生育するオオミトベラでは低い値が示された.PAMによるライトカーブを比較すると,明るい環境に生育するコバトベラで光合成に利用される電子伝達速度の値が最も高く,対するオオミトベラでは低い値を示した.コバトベラとオオミトベラの中間環境に多く生育する2種(シロトベラ・ハハジマトベラ)は,今回の分析において中間的な形質を持つことが明らかになった.
以上より小笠原産トベラ属4種は,幅広い光環境軸に沿って表現型値を分化させていることが明らかになった.表現型文化に対する可塑性の影響評価は今後の課題であるが,本研究の結果は本群の種分化要因として光環境への生態的適応が関与した可能性を示している.