| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-PC-284  (Poster presentation)

草原性植物の生育地としての河川堤防の評価
Evaluation of river embankments as habitats for grassland plants

*山下将輝, 小柳知代, 下野綾子(東邦大学)
*Masaki YAMASHITA, Tomoyo KOYANAGI, Ayako SHIMONO(Toho Univ.)

 かつては国土の1割を占めていたとされる半自然草原は、現在では都市化や農業様式の変化により1/10以下にまで減少した。それに伴い、草原性植物の生育地の減少や断片化が進行している。一方で、永続的な維持が期待できる草地として、河川堤防がある。河川堤防は主に盛土により築造され、侵食を防ぐため草本種で覆われる。この草地は草刈り管理の継続性や空間的な連続性などの面から、在来の草原性植物の重要な生育地となりえる。これまで河川は主に水生生物の生育地や移動経路として評価されてきたが、草原性植物においても、生育地間の移動を確保する緑の回廊としての機能が期待できる。
 そこで本研究では、千葉県北部の利根川堤防沿いと半自然草において、在来草本種2種(ツリガネニンジンとクララ)の生育状況および生育地間の遺伝的連結性を評価した。
 各地点で生育個体数を数えるとともに、葉を採集しDNAを抽出した。マイクロサテライト領域の遺伝子型を決定し、遺伝的多様性、集団間の遺伝的分化、遺伝構造について解析した。
 ツリガネニンジンは数千個体以上の集団が複数あったのに対し、クララの集団の個体数は多くても数百で、河川堤防の集団においては数十個体であった。クララの遺伝的分化の値は高く、河川堤防の集団は半自然草原のものとは異なる遺伝的クラスターに属した。一方ツリガネニンジンの集団間の遺伝的分化の値は低く、半自然草原と河川堤防の集団はほぼ同じ遺伝的クラスターに属したことから、河川堤防が草本種の「緑の回廊」としての機能しうると考えられた。しかし河川堤防ではツリガネニンジンの開花期に草刈りが行われることから、後代の定着は期待できず、現在の遺伝子流動は制限されていると考えられた。今後河川の防災機能を確保しつつ在来種の生活史を考慮した管理が行えれば、種の生育地かつ遺伝的なハブとしての機能が強化されるだろう。


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