| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-PC-286 (Poster presentation)
環境条件に応じて種の競争力が変動する際、環境のばらつきが多種共存に寄与するという概念は既に知られている。この現象を定量的に評価するにあたり、空間的ストレージ効果に着目することは一つの有効な手段とされている。この効果では、環境条件が空間的に不均一で、それによって環境への嗜好性や応答性が異なる種が異なるパッチに分布するとき、優占度の高い種において種内競争が種間競争を上回ることで、個体の加入と死亡のバランスで決まる個体群成長が抑制され、優占度の低い種の絶滅が回避される。この効果の成立にあたり、(1)環境条件が適していると個体間競争が激しくなること、(2)共存する種間で環境条件への応答性が異なることを満たす必要がある。現状では、自然群集において空間的ストレージ効果を示唆した事例は限定的である。そこで本研究では、冷温帯に位置する北海道大学中川研究林内の0.64 haの調査プロットにおいて、優占種のトドマツ、ミズナラ、イタヤカエデの共存を空間的ストレージ効果から説明可能かどうかを検証する。本研究では、個体間競争を距離と胸高直径に依存する混み合い度から定量した。また、温帯林では土壌窒素が樹木の生育の制限要因になることが多い。そこで、樹木の利用可能な土壌窒素の指標として土壌無機窒素を、窒素供給の指標として土壌CN比を測定した。これらの空間配置については、10mごとの格子点で採取したデータをGISでクリギングし、樹木の座標ごとに数値を推定した。条件(1)(2)の検証にあたり、土壌環境要因とそれぞれの種の混み合い度の相関を調べた。結果、ミズナラとイタヤカエデの共存は、土壌窒素をめぐる競争における空間的ストレージ効果を用いた説明が部分的に可能であることが示唆された。一方、トドマツの個体間競争では土壌窒素の影響が限定的であった。理由として、針葉樹のトドマツでは広葉樹のミズナラやイタヤカエデよりも土壌窒素要求性が低いことが考えられる。