| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-PC-287 (Poster presentation)
マツ科モミ属のオオシラビソ(Abies mariesii)は,我が国の中部地方から東北地方の亜高山帯に優占する主要樹種で,特に東北地方においては亜高山性針葉樹林を代表する優占種として知られている.本種の遺伝的情報をもとにしてそれらの成立過程を推定することは,東北地方における亜高山帯の植生の成り立ちを理解する上で,貴重な知見を提供する.近年のDNA分析およびゲノミクス解析技術の発展により,現生生物から得られるDNAの情報量が増大し,生物集団の遺伝的特徴を詳細に解析することができるようになった.そこで本研究では,オオシラビソを対象に集団ゲノミクス解析(遺伝的多様性・遺伝的構造・集団動態推定)を行うことによって,それらの分布の成立過程を推定することを目的とした.材料として,本種の分布域を網羅するように全11集団224個体(各集団7~26個体)を選定し,MIG-seq分析によって一塩基多型(SNP)の情報を取得した.これらの情報を解析した結果,各集団内の遺伝的多様性は,集団サイズの小さい栗駒・月山集団で低く,その他の集団には明瞭な差が認められなかった.集団間の遺伝的分化は,遺伝的多様性の低かった栗駒・月山集団を除き,地理的な距離に伴って顕著に増大し,それらの遺伝的まとまりは北東北集団・南東北集団・中部集団の3系統に大別された.集団動態推定の解析では,各系統に属する地域集団が最終氷期以降に分化したと考えられた.これらの情報は,亜高山帯植生の保全対策や,今後想定される地球温暖化の環境下における亜高山帯針葉樹林の温暖化適応策として用いることができる。