| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-PC-292  (Poster presentation)

スギ天然林の集団デモグラフィー解析 【B】
Population demographic history of natural C.japonica 【B】

*小沼佑之介(筑波大学大学院), 内山憲太郎(森林総研), 伊津野彩子(森林総研), 伊原徳子(森林総研), 津村義彦(筑波大学生命環境系)
*Yunosuke ONUMA(Tsukuba Univ.), Kentaro UCHIYAMA(FFPRI), Ayako IZUNO(FFPRI), Tokuko IHARA(FFPRI), Yoshihiko TSUMURA(University of Tsukuba)

スギ(Cryptomeria japonica)の天然林がどのようにして現在の分布に至ったのかについては、不明な点が多い。花粉分析や種分布モデリングの結果から、約38万年前に分布最盛期を迎え、約10万年前の最終氷期及び約2.3万年前の最終氷期最寒冷期(LGM)において分布は逃避地に限定されたことが示唆されている。最終氷期終了後の分布拡大の有無については、花粉分析や遺伝学的研究を含め、先行研究ごとに見解が相違する状況である。
そこで本研究では、スギの生物地誌解明のため、従来よりも多数のサンプルを対象に、ゲノムワイドSNP多型に基づく集団動態推定を行い、これまでの古生物学的・遺伝学的研究における見解と比較した。全国のスギ天然林21集団260個体を対象に、dd-RAD seq法により取得した約1万遺伝子座のSNPデータを用いて、遺伝系統ごと(北東北ウラスギ系統、日本海側ウラスギ系統、太平洋側オモテスギ系統、屋久島オモテスギ系統)にアリル頻度スペクトラムを算出し、Stairway Plotにより過去の個体群動態の推定を行った。
スギの有効集団サイズ(Ne)は4つの遺伝系統のいずれにおいても、過去100万年間で減少し続けたことが明らかになった。これは過去100万年の間の温暖期は短く、分布が拡大する前に寒冷期に突入したことで個体数が減少し続け、遺伝的多様性が低下したことに依ると考えられる。また本研究により、スギの分布最盛期は100万年以上前であったことが示唆された。LGM後も有効集団サイズが減少し続けたのは、スギの突然変異率が低く世代時間が長いため、最終氷期で減少した遺伝的多様性の回復には1万年では時間が足りなかったためであると考えられる。


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