| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-PC-295 (Poster presentation)
ウマノスズクサ科カンアオイ属は温帯林の林床に生育する常緑多年草であり、東アジア地域にて多様化している。この多様化の要因としては花形態の多様化が関連していると考えられているが、多くの種において訪花昆虫相を含む繁殖生態はほとんど明らかになっていない。宮崎県北部と高知県東部にそれぞれ分布するオナガカンアオイ(オナガ)とトサノアオイ(トサ)は、種間の遺伝的分化は非常に低いが、萼裂片の長さが著しく異なっている。そこで本研究はこの2種の訪花昆虫相と交配様式を比較することで、各種の繁殖生態の知見を得て、さらに各種の花形質の生態的意義を推測することを目的とした。両種を対象に2016年から2019年にかけて、訪花昆虫観察と野外において結実した個体から種子を回収し、遺伝解析による花粉親推定を行った。訪花昆虫観察の結果、両種とも訪花頻度は低いものの、双翅目昆虫や地上徘徊性昆虫の訪花が確認され、オナガのほうが双翅目昆虫の訪花の割合が高い傾向にあった。各種とも結実率は比較的低く全く結実しない年も存在し、多い年でも40%程度であった。また採集した4年分の種子の花粉親を推定したところ、オナガの自殖率は20%程度であった一方で、トサでは自殖率が70%近い自殖率を示した。一般化線形混合モデルを用いた解析結果から、オナガはトサと比べて、他殖率が優位に高いことが示された。一方で花粉の移動距離と有効花粉親数は、オナガとトサの間で有意差はなかった。以上より両種とも訪花頻度は低いものの、トサでは主に地上徘徊性昆虫による自家受粉が行われている一方で、オナガでは双翅目昆虫による他家受粉が主に行われている可能性があることが示唆された。