| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-PC-296 (Poster presentation)
大洋島などへ長距離散布された植物では、配偶者や花粉媒介者の欠如により他殖が困難になる補償として、一個体で繁殖を可能とする繁殖様式の進化が促されると考えられてきた。
マヤプシキはコウモリ媒花の特徴をもち、熱帯ではオオコウモリ類に送粉されているが、分布北限の西表島ではオオコウモリ類のマヤプシキへの訪花記録はほぼない。西表島のマヤプシキはコウモリ媒花の特徴をもちながらも、コウモリによる送粉が期待できない環境にある。このような環境では、自家和合性の促進や、花形態の変化による新たな花粉媒介者の獲得などを行っている可能性がある。そこで、西表島におけるマヤプシキの(1)繁殖器官数の季節変化、(2)訪花者の組成と季節変化、(3)花形態と繁殖成功度を明らかにすることを試みた。
2018年9月~2019年12月までの観察の結果、西表島のマヤプシキは、年3回の開花ピークを示し、冬季も開花・結実していた。花・つぼみ数は夏季にしばしば減少し、1年周期の季節変化よりも、台風撹乱の影響を受けやすいと示唆された。
西表島では、鳥類、膜翅目、双翅目、鱗翅目、カニ類など多様な動物がマヤプシキに訪花していたが、どの種も訪花頻度は低く、送粉者として十分に機能しているとは考えられなかった。ガ類のみが開花時間に最も適合した夜間に訪花したが、その盗蜜者的な行動から、有効な送粉者ではないと考えられた。人工授粉実験による結実率を比較すると、自然状態より人工授粉で結実率が高く、花粉制限が生じていると考えられた。有効な送粉者の僅少さと、開花時間と訪花時間との不一致性によって、他殖による繁殖が制限されている可能性が示唆された。
マヤプシキの花に対する他家受粉処理と自家受粉処理による結果率は、それぞれ64%と58%と差が小さく、自家和合性の程度が高いことが示唆された。分布北限で送粉者が不足する環境では、マヤプシキは自家和合性を発達させてきたと考えられた。