| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-PC-300 (Poster presentation)
アブラナ科多年草のコンロンソウ (Cardamine leucantha) は、土壌中に地下茎を伸長させ、その先端に新たなクローン株を形成する。地下茎は地上の茎に由来する器官で、未分化な茎頂分裂組織を先端に持っており、土壌中を水平に伸長する。アブラナ科植物が生産する植物地下部の忌避物質の活性に必要な働きをする細胞小器官として、ER (Endoplasmic reticulum) -bodyがある。本研究では、地下茎の伸長とそれに伴うER-bodyの変化、土壌の生物的環境を解析し、植物地下部と土壌環境との関係を明らかにすることを目的とした。
はじめに自然環境におけるコンロンソウ地下部の挙動を調べるため、滋賀県多賀町のコンロンソウ自生地において、外的環境の季節変化ならびに地下茎の成長を測定した。さらに月1回地下茎をサンプリングした。伸長する地下茎は9月から11月にかけてその先端に根出葉を形成し、3月になると地上に花茎を伸長しはじめた。根出葉分化前に伸長が停止する地下茎や、先端部分が枯死状態にある地下茎も見られた。地下茎からRNAを抽出し、Real-time PCRによってpyk10 (ER-body関連遺伝子) の発現量を定量した。結果より、野外環境では5月から8月にかけて徐々に上昇した。そして伸長が止まってからも3月まで発現が維持されることがわかった。また、枯死した地下茎を多くもつ株ほどpyk10発現量が低く、根出葉の有無によって発現量が異なる傾向が見られた。
次に、土壌中の生物に対する地下茎の応答性を調べるため、 (1) 滅菌処理、(2) 細菌投入、(3) 真菌投入、(4) ミミズ投入、(5)ネコブ病菌投入、(6) 無処理を施した森林土壌を用意し、コンロンソウの栽培を行なった。その結果、地下茎の本数は細菌投入土壌で多く、長さは真菌投入土壌で多いことがわかった。また、細菌投入及びミミズ投入処理の土壌でpyk10発現量が高かった。これらの土壌では細菌数が高かったことから、土壌の生物的環境が地下茎の伸長やER-bodyの形成に関わっている可能性が示唆された。