| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-PC-301 (Poster presentation)
種子散布は植物にとって最大の分布拡大手段であり、子孫を残すために最も重要なイベントの一つである。種子散布戦略の一例として、複数のタイプの種子を作る種が知られている。塩生植物のマツナ属(ヒユ科)では、日本産4種のうち、ヒロハマツナを除く3種が休眠性の異なる2種類の種子(軟実種子、硬実種子)を作る。例えば、有明海沿岸の泥干潟に分布するシチメンソウでは、ほとんどは休眠性が低く親株の近傍で発芽するとされる軟実種子であるが、ごく一部、休眠性が高く、親株から離れた場所で発芽するとされる硬実種子も形成される。佐賀県で過去最高気温と最少年間雨量を記録した1994年には、硬実種子の比率が10~25倍増加した事例が報告されており、比率は環境条件により変化することが示唆されるが、詳細は未解明である。本研究では、日本産マツナ属4種について、2016年から2019年にかけて野外における軟実種子と硬実種子の比率を調査するとともに、シチメンソウとハママツナを対象に、様々な環境要因を変化させた栽培実験を実施し、種子の比率を調査した。その結果、4種のマツナ属のうち、泥干潟に生育するシチメンソウでは硬実種子の比率が低く、例年は0.3%未満、漂着物の影響などで枯死率が高かった2017年には1.5%であった。また、同じく泥干潟で生育するヒロハマツナでは硬実種子は確認されなかった。一方、砂干潟に生育するハママツナとマツナでは硬実種子の比率が相対的に高かった。また、栽培実験では、ハママツナにおいて塩分濃度が高まると硬実種子の割合が増加する傾向が、認められた。以上の結果から、砂干潟に生息する種に比べ、砂干潟に生息する種は生育可能な場所が限られており、親株近傍発芽する軟実種子の割合が高いこと、及び、塩分濃度などの環境要因が複合的に作用して二型の比率が変化することが示唆された。