| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-PC-302  (Poster presentation)

バイケイソウ個体群における一斉開花は捕食者飽和仮説で説明できるのか? 【B】
Can mass flowering in  Veratrum album populations be explained by the predator satiation hypothesis? 【B】

*伊藤陽平, 工藤岳(北大・院・環境)
*Yohei ITO, Gaku KUDO(Hokkaido Univ.)

数年間に一度、大量に花・種子生産を個体群で同調して行う一斉開花現象が様々な植物で報告されている。一斉開花の進化的要因の一つである「捕食者飽和仮説」は、スペシャリスト捕食者の餌資源である花や種子量を変動させることで個体数を低く抑え、種子食害を回避しているという説である。この仮説の検証例は、木本植物の種子食昆虫を対象とした事例がほとんどである。
 大型多年生草本バイケイソウ ( Veratrum album ) では、局所的な個体群スケールの一斉開花が確認されている (谷 2010生態学会)。繁殖器官の食害を調べたところ、開花期の花茎内部組織食害昆虫と結実期の種子食昆虫が確認された。花茎が食害された個体では、大量の花数が失われていた。DNAバーコーディングの結果、花茎食害昆虫はクロツヤバエ亜科のハエの幼虫 (Lonchaeinae sp.) 、種子食害昆虫はナミシャク亜科のガの幼虫(Eupithecia veratraria subsp.)であると判明した。バイケイソウの一斉開花は捕食者飽和仮説で説明できるかどうかを検証するために、北海道の6個体群で5m×1mプロットを8個ずつ設置し、開花ラメット密度、開花ラメットの花数、果実数、各食害による花または種子へのダメージについて測定した。
 調査の結果, 個体群間の開花ラメット密度は有意に異なっていた。個体群の開花ラメット密度の高いほど花茎食害のダメージは低く、その結果、開花量や果実量は高くなっていた。 一方で種子食害に関しては、種子生産量に対応した食害ダメージの明瞭な傾向は見られなかった。以上から、バイケイソウ個体群での一斉開花現象は、花茎食害昆虫であるクロツヤバエに対する捕食者飽和仮説で説明できる可能性が示唆された。


日本生態学会