| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-PC-311  (Poster presentation)

クロユリの花浸出液の化学分析と役割 【B】
The chemistry and role of floral exudate in Fritillaria camschatcensis 【B】

*李俊男(京都大学), 武田和也(京都大学), 望月昂(東京大学), 乾陽子(大阪教育大学), 川北篤(東京大学)
*Junnan LI(Kyoto university), Kazuya TAKEDA(Kyoto university), Ko MOCHIZUKI(University of Tokyo), Yoko INUI(Osaka kyoiku university), Atsushi KAWAKITA(University of Tokyo)

 花蜜は最も普遍的に存在する植物の花分泌物の一つである。花蜜は糖を含むため、今まで「報酬」としての機能が最も研究されてきたが、近年、花蜜には盗蜜者を排除するための忌避物質など、「報酬」以外の物質も含まれていることが分かりつつある。演者らは日本で高山植物として名高いクロユリ Fritillaria camschatcensis(ユリ科)の花が、特徴的な匂いをもつ浸出液を多量に分泌していることを観察し、ハエ類がその液体を舐めるような行動を確認した。本研究は、その浸出液が植物と昆虫の相互関係においてどのような役割を果たしているのかという問題に着目した。
 日本において、クロユリは本州の中部地方の高山帯に分布する高山型クロユリと、北海道の平地に分布する低地型クロユリが知られている。高山型と低地型のクロユリとも、多くの双翅目により訪花され、その中で葯や柱頭と接触できる大型の双翅目が送粉者であると考えられた。花全体、および浸出液のみの匂いをそれぞれ分析した結果、低地型クロユリの花と浸出液には多くのテルペン類が検出されたのに対して、低地型クロユリでは植物の花の匂いではあまり一般的でないカルボン酸がいくつか検出された。カルボン酸の人工混合液を用い、誘引実験を行った結果、カルボン酸はハエ類を誘引することがわかった。低地型と高山型クロユリの浸出液には糖が含まれていたが、低地型クロユリの浸出液は非常に糖度が低いことがHPLCによる成分分析で明らかになった。
 本研究により、クロユリの浸出液は送粉者への「報酬」と「誘引」の2つの機能をもっていることが示唆された。クロユリのような、匂いをもつ浸出液を花が多量に出す現象はこれまでほとんどの報告がなく、植物の花分泌物が今まで知られている以上に多様であること示唆している。


日本生態学会