| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-PC-316  (Poster presentation)

長期群集フェノロジーデータを用いた半島マレーシアにおける植物の開花・結実の解析
Analyses of Species-Specific Environmental Trigger of Reproduction Using Long-Term Phenology Data  in Peninsular Malaysia

*山口香春(九州大学理生物), 森本彩夏(首都大学東京観光科学), 保坂哲朗(広島大学国際協力), 沼田真也(首都大学東京観光科学), 佐竹暁子(九州大学理生物)
*Koharu YAMAGUCHI(Kyushu Univ.), Ayaka MORIMOTO(Tokyo Metropolitan Univ.), Tetsuro HOSAKA(Hiroshima Univ.), Shinya NUMATA(Tokyo Metropolitan Univ.), Akiko SATAKE(Kyushu Univ.)

 東南アジアフタバガキ林では、数年に一度の不規則な周期で多く種が同調して開花をする一斉開花と呼ばれる現象が見られる。フタバガキ科サラノキ属は開花の2、3ヶ月前に生じる乾燥と低温が開花を誘導するが、環境要因への応答性は種間で異なることが明らかになってきた。しかし、先行研究では特定の科や種のみに偏っており、非季節性の熱帯雨林における多様な系統の植物の開花・結実フェノロジーについては、定量的な分析が不足している。本研究では半島マレーシアに位置するマレーシア森林研究所の樹木見本園で1976年から2010年まで毎月観測されたフタバガキ科を含む43科221種の長期群集開花・結実の記録を用い、1)開花・結実パターン、2)開花・結実のタイミングにおける系統関係の影響、3)開花に影響を与える気象条件について解析した。
 科レベルで開花・結実フェノロジーを調べた結果、多くの科で3~6月の春咲きが見られるが、9~12月の秋咲き傾向は一部の科でしか観察されなかった。次に、開花・結実フェノロジーの類似性をもとにクラスター分析を行った結果、開花頻度の低い一斉開花型I、開花頻度の高い一斉開花型II、低頻度型、高頻度型に分類された。フタバガキ科、マメ科、ウルシ科は全てのグループに含まれており、全221種の種組成と比較すると、一斉開花型Ⅱにおいてフタバガキ科が有意に多く含まれていた。各グループにおいて開花フェノロジーと温度・降水量の関係をロジスティック回帰により分析した結果、高頻度型は乾燥と低温に、高頻度型以外はそれぞれ異なる程度の乾燥に応答し、開花することが明らかとなった。
 以上より、東南アジアでは一斉開花以外の開花・結実パターンが存在し、開花・結実パターンは多様であることが示された。さらに、開花・結実パターンの相違は、気象要因への応答性の相違により生じていることが示唆された。これは近縁種間での受粉回避や、送粉者をめぐる競争の緩和に役立つと考えられる。


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