| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-PC-317 (Poster presentation)
近年、急速に進む都市化に伴う人工地面積の増加は、半自然生態系における植物の生育環境の喪失や縮小・分断化を促進するだけでなく、生育環境の改変を引き起こしている。先行研究では、都市-農地環境間で植物の表現形質の変異が確認されており、都市環境に対する適応がみられることが示唆されている。都市集団での変異には遺伝的適応と可塑的応答の両方が含まれると考えられ、野外集団と人為的に操作した栽培条件下との比較によりどちらかを明らかにする必要がある。本研究では、阪神地域の都市-里山環境傾度において水田畦畔に生育する一年生草本のツユクサ(Commelina communis)を対象に生育環境や栄養生長・繁殖形質の集団間比較を行い、「野外環境では、都市-里山集団で異なる栄養生長・繁殖形質の変異が見られるのか」、「同一栽培条件下でも、野外と同様の形質変異がみられるのか」、「都市集団における形質変異はどのような環境への適応なのか」、という問いを検証した。
本研究では阪神地域の都市-里山間の水田を計12地点調査し、調査地ごとに半径1㎞円内の人工地面積の割合を都市化の指標と定義し、1㎢円内の人工地面積の割合から都市-里山環境傾度を設定した。都市-里山環境傾度間の環境要因(土壌pHと日照時間、植生高)、機能形質(SPAD、葉面積、葉数、植物高、苞サイズ)を野外で測定した。さらに、都市域の2地点、里山域の2地点からツユクサ実生を採取し温室内で栽培し、野外と同様の形質を測定した。
結果から、都市-里山間には、土壌pHや日照時間に差があり、複数の栄養生長形質の集団間変異が存在することがわかった。また、温室実験の結果から、野外で見られた傾向と同様の傾向を示した形質(SPAD、葉数)は、都市化に伴う乾燥ストレスに対した適応、野外と異なる傾向を示した形質(葉面積、植物高)は、富栄養化に対する応答の可能性があるため、遺伝的適応と可塑的応答の両方が混在していることが示唆された。