| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-PC-318 (Poster presentation)
ササ属やスズタケ属などの植物は日本の夏緑広葉樹林の主要な林床構成種であり,林床におけるササの優占は森林更新に大きな影響を及ぼすことが知られている.また,一回繁殖性植物であるササは,通常は地下茎により栄養繁殖するが,数十年に一度一斉に開花して枯れ,実生により更新する.
東京都の管理する水道水源林(以下水源林)では, 2000年頃から2015年まで断続的にスズタケが開花していたことがわかっており,スズタケの一斉開花による枯死とシカの採食による衰退の進行により,水源涵養機能の低下が心配されている.しかし,スズタケの一斉開花後の実生による更新に関しての知見はほとんど無い.水源林のスズタケ実生の発生状況についての現地調査は行われていないため,開花後にスズタケの実生による更新が進んでいるのかは不明である.そこで,水源林内のスズタケ実生の発生状況を確認するために,スズタケが開花,枯死した場所で実生調査と環境調査を行った.また,実生の発生状況を他地域と比較するため,スズタケの開花が確認されている北海道厚岸,美濃・恵那,くじゅう連山において同様の調査を行った.
水源林内のスズタケの実生個体は2015年開花の地点で平均5.9個体/m²,2009年以前に開花した地点で平均2.5個体/m²であり,開花年の近い北海道厚岸の9.0個体/m²(2015年開花),4.3個体/m²(2008年開花)と比較して少なかった.また,水源林では開花後年数が経つほど稈の倒伏度合いが大きくなり,稈が消失した地点では実生が確認できない地点の割合が高くなった.開花年が違うため単純に比較できないが,他地域でも開花後年数が経っている地域ではスズタケ実生の個体数が少なかった.シカによる食痕はどの地域でも認められた.発芽直後の実生は採食率が低いが,発芽後数年経ち,大きくなったものでは約4割に食痕がみられた. 2009年以前に開花した地域の実生に地下茎が発生し,栄養繁殖を開始したものがみられた.