| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-PC-323 (Poster presentation)
サトイモ科テンナンショウ属の多年生草本コウライテンナンショウは雌雄異株であるとともに、雄個体から雌個体へと可逆的な性転換をする。これまで行った研究から、コウライテンナンショウの性転換について、雄個体は経年成長による個体サイズの増加(球茎への資源の蓄積)、雌個体は前年の種子生産量が関連した資源の消費によるものであることが示された。しかし、定期的な掘り取り調査により、雌個体の球茎内で翌年の花芽が形成されるのは種子の完熟よりもはるかに前であることが明らかになった。そこで本研究では雌個体の性決定のタイミングに着目し、種子形成以前の受粉が関与しているのではないかと考え、野外操作実験を実施した。
調査は札幌近郊の防風林内の個体群で実施した。まず、受粉が翌年の性決定に関与しているのかを調査するために、雌個体を開花前に袋掛けし、開花後に受粉と種子生産に着目して3つの操作を行った。1)袋掛けしたまま受粉させずに花序を切除した個体、2)強制受粉を施し、袋掛けし7日後に花序を切除した個体、3)強制受粉を施し、袋掛けし結実させた個体。各処理個体を30個体準備し、7~9月に毎月5~10個体ずつ球茎を掘り起こし、実体顕微鏡下で翌年の花芽の発達状況を観察した。また球茎の乾燥重量を測定し、各個体の持つ資源量を評価した。
その結果、操作1)と操作2)のすべての処理個体は、翌年もそのまま雌にとどまる一方、操作3)の処理個体の6割以上が翌年雄に性転換することが明らかになった。操作2)より、受粉の段階ではまだ結実への資源投資が決定されていないことが示唆される。このことから、雌個体の性転換は受粉の段階ではなく、受精やその後の過程が関与していると考えられる。