| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-PC-329 (Poster presentation)
森林の生産速度は、光獲得量と光利用効率(生産量/光獲得量)の積で決まる。同じ地域では、土地面積当たりの光獲得量には大きな差はないと考えられるため、生産速度の違いにおいては林分の光利用効率の違いが重要である。個葉の光-光合成曲線は飽和型であるため、樹冠上部で光飽和点以上の光を獲得すると、光を有効にバイオマスに転換できない。よって、樹冠内での光の分散が光利用効率の向上に重要であると考えられる。しかし、樹冠構造は複雑で、樹形が森林の生産速度に及ぼす影響はほとんどわかっていない。そこで本研究では、樹冠部での光獲得と光利用効率に注目し、樹形が森林の生産速度に及ぼす影響について明らかにする。
林木育種センター(茨城県)の個体間競争試験園に植栽されている20年生のスギ第一世代精英樹4系統を対象とした。この試験園には、各系統が5本×5本の方形状に植栽されており、系統間で異なる樹形が森林の生産速度に及ぼす影響を評価できる。この試験園において、当年の生産速度、樹形(樹冠形と葉群分布)、光の鉛直分布、個葉の光合成速度などを測定した。また、放射伝達モデルを用いて対象林分の光獲得の再現と生産に及ぼす樹形の効果を検証した。
当年の生産速度は、系統間で異なっていた(0.6-1.5 kg m⁻² year⁻¹)。系統間で土地面積当たりの光獲得量に有意な差はなく、生産速度の違いは林分の光利用効率から説明できた(0.4-0.9 g MJ⁻¹)。系統間で個葉の光合成速度に有意な差はなかったが、光利用効率が高かった系統では葉群が分散している傾向があり、林冠層で緩やかに光が減衰していた。これらの系統では、樹冠上部で多くの光を獲得せず、樹冠下部まで光を分散させることで、林分の光利用効率が高くなったと考えられる。また、放射伝達モデルを用いたシミュレーションでも実測と同様の傾向が再現された。以上より、樹形が林分の光利用効率に影響し、森林の生産速度にも強く影響することが分かった。