| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-PC-332 (Poster presentation)
これまで土壌乾燥による樹木の枯死メカニズムとして、通水欠損と糖欠乏とが独立して提唱されてきた。通水欠損耐性と糖貯蔵能は密接に関係しており、樹種間差がある。樹木の乾燥枯死に対する2つの要因の関係を解明するためには様々な樹種でその反応を確かめる必要がある。
そこで乾燥性の小笠原諸島父島に生育する様々なfunctional typeの22樹種を対象に,夏季と冬季で枝の通水度、通水欠損度、可溶性糖・デンプン貯蔵量、夜明け前と日中の葉の水ポテンシャル(Ψpd、Ψmid)を測定した。末端枝における水ポテンシャル変化に対する通水度変化の関係を測定し、最大通水度に対して50%低下した水ポテンシャル(P50)と88%低下した水ポテンシャル(P88)を求め、通水欠損耐性の指標とした。各樹種で通水欠損からの「安全度」(Ψmid-P50、Ψmid-P88)を比較した。
その結果、夏季・冬季とも、P88が低い種ほど日中の水ポテンシャルが低くなる傾向があったが、P50とは有意な相関が認められなかった。安全度は、通水欠損耐性が高い種ほど大きく維持された。可溶性糖量はP88と有意な相関が認められなかった。先駆性の灌木は通水欠損耐性に関係なく、貯蔵デンプン量が少なかった。灌木以外の樹種間では、P88と貯蔵デンプン量は正の相関を示した。
以上より、樹木が乾燥ストレスにより衰退する際に、通水欠損が主な衰退要因となる樹種と、糖欠乏が主な衰退要因となる樹種とがあることが示された。しかしながらある程度の通水欠損耐性をもっている種間においても、全糖貯蔵量には大きな樹種間差があるなど、樹木が強い乾燥ストレスを受けた際の、適応の仕方に多様性があると考えられる。ただし、灌木樹種は樹木と比べて全体的に可溶性糖/全糖の比率が有意に高く、光合成で得た糖を積極的に成長など生理活性に回し、灌木はよりoptimisticな生活史戦略をとっていると分かった。このことから樹木をfunctional typeで分け、乾燥枯死要因を考察していく必要性が考えられた。