| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-PC-334 (Poster presentation)
山岳地帯においては、標高の上昇に伴って低温、強風、冬季の積雪及び土壌栄養の低下などにより、樹木の生育が厳しくなる。本研究では、亜高山帯に生育する樹木の葉の生理的適応を明らかにするため、葉の水分特性を二標高間で比較した。長野県乗鞍岳の標高2000mと2500m(高木限界)において、優占する落葉広葉樹ダケカンバの当年葉と常緑針葉樹オオシラビソの一年生シュートを採取し、P-V曲線法によって水分特性を評価した。測定は、両樹種の葉の成熟度に沿って2019年7月から10月にかけて3回行った。ダケカンバでは、両標高で葉の成熟に伴って細胞壁の弾性率(ΔRWC/ΔΨ)が低下したが、標高間での値の違いは無かった。葉の飽水時の浸透ポテンシャル(Ψs,sat)は、両標高で葉の成熟に伴って低下し、また落葉直前の9月において2500mの葉のほうが2000mの葉と比べて大きい値となっていた。このΨs,satの違いにより、9月における葉の萎れ点での相対含水率(RWCtlp)及び萎れ点での水ポテンシャル(Ψw,tlp)は2500mの葉のほうが2000mの葉より高い値となり、膨圧を失いやすいことが示唆された。オオシラビソでは、ダケカンバと同様に、両標高で葉の成熟に伴ってΔRWC/ΔΨが低下し、また測定期間を通じて2500mの葉のほうが2000mの葉と比べてΔRWC/ΔΨが大きかった。Ψs,satは、ダケカンバと同様に、両標高で葉の成熟に伴って低下したが、標高間での値の違いは無かった。ΔRWC/ΔΨの違いにより、葉のRWCtlp及びΨw,tlpは、測定期間を通じて2500mの葉のほうが2000mの葉より低い値となり、膨圧の維持に有利であることが示唆された。本発表では、葉の窒素含量や炭素安定同位体比など他の葉形質との関連も踏まえながら、高標高に生育する広葉樹と針葉樹の葉の水分特性について考察する。