| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-PC-335 (Poster presentation)
標高勾配がもたらす劇的な環境変化の中で、植物はどのように適応しているのか。高山帯に適応した高山植物には、葉毛を持つ種が多く知られており、葉毛によって葉が濡れにくくなることが示され、それによる凍結損傷の軽減機能など様々な機能が推測されている。葉毛の機能が標高適応と関係があるのかを理解するには、異なる標高由来の植物間で植物の機能を比較する必要がある。幅広い標高帯に分布する標高万能型植物は、生物学的背景を共有する種内で比較することができ、植物の標高適応の仕組みを解明する上で便利である。アブラナ科シロイヌナズナ属ミヤマハタザオは標高万能型の多年生草本であり、葉や花茎に毛がある個体の割合が高標高集団の方が低標高集団よりも多く、標高適応との関係が疑われる。そこで、高標高集団の葉は毛があることで葉面が濡れにくく凍結耐性が高まるという作業仮説を検証した。
遺伝的背景を揃えた上で毛の機能を解明するために、マイクロ剪刀を用いた有毛葉の除毛法を開発し、中部山岳地域の異なる標高由来の有毛・無毛系統から、有毛・除毛・無毛の3群を用いた噴霧実験と冷却実験を行い、葉の濡れ性・凍結耐性を調べた。
葉へ水を噴霧すると、葉上の水の総量は毛の有無によって差はないが、有毛葉では水滴の多くが毛先に付着することで、葉表面の水の量が平均で半分以下になることが分かった。また、噴霧しない場合には-12℃以下の温度で、葉のSPAD値が大きく減少する凍結損傷が多くの個体でみられた。噴霧した場合には、-8℃で同様の凍結損傷が見られた。同じ-12℃条件では、水噴霧により植物の凍結損傷が増えた。毛の有無が凍結損傷に与える効果は検出されなかったが、毛があることで葉表面が濡れにくく、葉が濡れていると凍結損傷が大きいことが分かった。したがって論理的には、毛が濡れ防止機能を通じて葉の凍結損傷を防ぐ機能を持つことが推察された。