| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-PC-336  (Poster presentation)

トドマツ苗木の個葉光応答に関する表現型可塑性の種内変異
Intraspecific variation in the plasticity regarding needle light responses of Abies sachalinensis seedlings

*菅井徹人(北海道大学), 石塚航(道総研), 渡部敏裕(北海道大学)
*Tetsuto SUGAI(Hokkaido Univ.), Wataru ISHIZUKA(HRO), Hiroyuki WATANABE(Hokkaido Univ.)

 固着性の植物にとって光に対する個葉の応答は生存や成長に直結し、それは群落構造や分布にまで影響する。モミ属(Abies sp.)をはじめとした陰性植物は耐陰性に優れており、遮光条件下で生育すると葉の構造や生理機能などの形質を柔軟に変化させる。このような環境に対する順化応答は、表現型可塑性(以下、可塑性)として知られている。また、植物は自生地特有の環境へ適応した遺伝的変異を示すことがあり、適応的な形質に変異が認められることは局所適応として知られている。もし可塑性が局所適応と関連すれば、可塑性の大きさ自体に種内変異が認められ、自生環境に沿った地理的傾向を示す可能性がある。
 この仮説を検証すべく、本研究では高い耐陰性を示すトドマツ(A. sachalinensis)に着目した。トドマツは北海道全土に幅広く分布する主要極相種であり、水平勾配に沿って局所適応していることが知られている。本研究では、分布全域にわたる由来産地別トドマツ苗木を共通圃場試験にて遮光実験に供し、光条件に対する可塑性の大きさを定量した。本研究では、遮光条件下で明瞭に変化する耐陰性関連形質として、葉のクロロフィル濃度やLMAを測定した。可塑性の指標として、各条件に対する形質値を用いて応答幅を算出した。
 実験の結果、産地ごとに算出されたLMAの応答幅は、由来環境の初夏日照条件と正のクラインを示した。一方、クロロフィル濃度の応答幅には由来環境に対する傾向が検出されなかった。今回の発表では、可塑性の大きさと局所適応が関連する意義を検討する上で、形態的可塑性と生理的可塑性の差異や、集団スケールでの光環境と個葉形態の関係等に注目して議論する。


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