| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-PC-337 (Poster presentation)
近縁の樹木種でも常緑樹と落葉樹に分かれている例が多くみられる。様々な系統で同様の進化が起こっていることを平行進化といい、適応進化を考える上で重要な研究素材である。湿潤温帯の常緑樹と落葉樹の戦略の大きな違いは冬を避けるか耐えるかの違いと理解でき、葉のフェノロジーが大きく異なり、また葉の形質も大きく異なる。常緑・落葉という平行進化の生態学的基盤を理解するためには、両グループの形質の分化パターンの共通性を明らかにする必要がある。これまでの研究は、葉面積や葉の厚さ、光合成特性などの一部の形質にのみ着目したものが多く、また落葉・常緑の形質の違いを季節変化まで含めて、総合的に評価比較したものは少ない。常緑樹の大きな特徴は、低温乾燥な冬を耐えられることであり、そのためには葉の力学特性、水分特性が特に重要な形質になると考えられる。本研究では常緑樹と落葉樹の葉の機能形質および光合成特性、水分特性を総合的に測定・比較することで落葉と常緑の分化の共通性と異質性を明らかにすることを目的とした。
京都に自生しているコナラ属、モチノキ属、サクラ属、スノキ属、ウコギ科、5系統のそれぞれの落葉樹と常緑樹のペア(計10種)を対象に、葉面積当たりの葉重(LMA)、葉の強度、光合成速度、水分特性を季節ごとに測定し比較した。
面積当たりの光合成速度は落葉樹と常緑樹で大きな違いはなかった。しかし、葉の重量当たりの光合成速度を比較すると落葉樹の方が高く、落葉樹のほうがより効率的に光合成を行っていると考えられる。LMAと葉の強度は常緑樹の方が高く、常緑樹はより多くのコストを葉の丈夫さに投資していると考えられる。水分特性の値はともに春から秋にかけて低下した。このことから、常緑樹は冬に浸透調節を行っている可能性が考えられる。また、今回測定した形質は系統間の違いが大きかったことから、形質の分化には系統内である程度制限があると考えられる。