| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-PC-338 (Poster presentation)
樹木の種子生産は、樹体内のシンク-ソースバランスを大きく変える現象であり、樹木の生理特性に影響を与える。また、台風の攪乱も、樹木に落葉や塩害といった大きなダメージを与えるが、希なイベントであり、樹木への生理影響に関するデータはほとんどない。仮に、種子生産と台風攪乱が同時に起こった場合、樹木の成長や生残に大きな障害が起こると予想されるが、野外で検証した研究例は乏しい。本研究の調査地である小笠原諸島父島では、固有種のシマイスノキが2019年に種子の成り年を迎え、さらに同年10月に台風21号が直撃し、樹木に大きな被害を与えた。また、種子生産や台風被害の度合いには個体差がみられた。
そこで種子生産量と台風の被害度が異なるシマイスノキ9個体を対象とし、種子生産と台風攪乱の2要因が樹木の生理特性に与える影響を明らかにした。台風前におけるシュート乾重に対する種子乾重を種子生産量、台風の前後における葉の細胞損傷度の変化量を台風ダメージとして、光合成能力、末端枝の糖貯蔵および新葉面積との関係を調べた。
葉の細胞損傷度が大きい個体ほど、多くの旧葉が落葉し、枝に残った旧葉の最大光合成速度は低下した。そのため、台風ダメージの大きい個体では、新葉の展開がその後の物質生産の回復に重要であると考えられる。また、葉の細胞損傷度が大きくなるに従って新葉面積は大きくなるが、その増加率は種子生産量が大きくなるほど減少した。このように種子生産と台風被害には新葉の増加率に対する交互作用が見られた。ここで、種子生産量が大きい個体ほど、末端枝の貯蔵デンプン含量は少なくなったことから、種子生産による貯蔵デンプンの低下が新葉の展開を阻害していることが考えられる。
以上より、種子生産と台風攪乱が樹木の新葉展開に影響を及ぼし、その後の樹木の成長に影響を与えることが示唆された。